無料かつ高機能な RPA (マクロツール)、Pulover’s Macro Creator の使い方の連載、第1回。
Pulover’s Macro Creator(PMC)は最近の無料RPAツールや、下手をすると有料のものと比較しても、ひけをとらないほど高機能かつ高性能です。しかし、とっつきやすさでいうと、無料であるところからもう一つかなと思います。
そこで本連載では、Pulover’s Macro Creator を RPA をつくる! という目標から説明します!
関連リンク
- Pulover’s Macro Creator
- 本連載の他の回や、Pulover’s Macro Creatorの関連記事については以下のページにまとまっています。
Pulover’s Macro Creator の画面説明
初期設定で、「AHKを書ける人もRPA初心者もいろんな機能にアクセスできる」ため、非常に多くのアイコンが並んでいます。
最初からおぼえておきたいPulover’s Macro Creator の画面
最初からおぼえておきたいところに、番号を振りました。
それから、最初から使うボタンは大体、上の方に固まっています。下の方のボタンにいくにしたがって、人によっては使わなかったり、右クリックから呼び出したり……といったことが増えるので、まずは上の方をマスターしましょう。
上図について、ざっと説明します。ただ、一度に全部覚えようとすると大変なので、「ふーん、そうなんだ」くらいで大丈夫です。分からなくなったら、何度も戻ってきましょう。
- 左から、新規作成/開く(▼から最近使用したファイル)/上書き保存/名前をつけて保存
- 操作を記録する「準備モード」に入ります。ウィンドウが最小化され、ツールバーコントロールが表示されます(⑥がオンの場合)。また、▼から記録する操作を選べます。
- マクロ・RPAを実行する「準備モード」に入ります。ウィンドウが最小化され、ツールバーコントロールが表示されます(⑥がオンの場合)。また、▼から再生オプションを選択できます。
- すぐにマクロ・RPAの実行を開始します。
- 「準備モード」になったとき、タスクバーにアイコンを残さず、完全にタスクトレイに格納します(常にタスクトレイには表示されます)。
- ツールバーコントロールと呼ばれる、マクロ・RPAの実行・記録を操作する小さいウィンドウを表示するかしないか、選択します。
- ホットキーをいつでも有効にするか選びます。
- ファイルの中のマクロ(タブ)ごとに、実行するホットキーを設定します。テキストボックスの中でホットキー(Shift や Ctrl と組み合わせ可能)を押すことで設定できます。
- マクロ、RPAの実行を停止するホットキーを設定します。特にデバッグ中はかならず設定しておきましょう。
- マクロ、RPAの内容(アクション)がここに表示されます。PMCではタブごとにコマンド群が分けて記述され、それぞれ違うキーで実行できます。
- PMCで作成されたマクロ・RPAのコマンドの内容が、AHKではどのようなスクリプトの記述になるかのプレビューです。
- AHKのスクリプトのプレビューを切り替えます。AHKの学習に興味がない場合は、オフでいいと思います。
ツールバーコントロール
- 実行・記録するマクロ・RPAを、タブの左からの順番で指定します(今回の例では、Macro1とMacro3がタブとしてありますが、Macro3は3ではなく、2のときに実行・記録されます)。
- 指定したタブのマクロ、RPAを実行します。
- 実行を停止します。
- 実行オプションを選択します(メインウィンドウの▼と同じ)。
- 指定したタブに、追記する形で操作の記録を開始します(上書きはしない)。
- 新しくタブを作成して操作の記録を開始します。
- 操作の記録オプションを選択します(メインウィンドウの▼と同じ)。
- 指定したタブに記録されたコマンド・もともと書かれていたコマンドを全て削除します。
- マクロ、RPAが全体に対してどれだけ実行されているか、を示すプログレスバーを表示します(10)。
- 進捗度を示すプログレスバーです。
- ツールバーコントロールのタイトルバー(ウィンドウ名や×があるところ)の表示・非表示を切り替えます。
- Pulover’s Macro Creatorのメインウィンドウの表示・非表示を切り替えます。
- ツールバーコントロールの不透明度を調整します(左にドラッグすると、透明になっていって後ろのウィンドウが見える)。
RPAの基本は、操作の記録
RPAにしろマクロにしろ、人間が繰り返し行う作業をPCに代替させるので、基本は操作の記録です。プログラムを書ける人でも、ある程度長い処理であれば、Pulover’s Macro Creatorで操作を記録して、それをひな形とするのが便利だと思います。
もちろん、Pulover’s Macro Creator だけでRPA・マクロの記述(シナリオの作成)を行う場合でも同様で、0からコマンドを選んで入力していくよりは、操作の記録をベースとした方が大体の場合は楽になります。
ということで、次節では実際にPulover’s Macro Creator で操作を記録し、実行してみましょう。かんたんなRPA 体験ですね。
キーボード操作のみの記録
今回は、Windows 10のスタートメニューから、キーボード操作で「電卓」を起動してみたいと思います。以前の記事でも同様の操作を行っていますが、ここではもう少し丁寧に記録や編集を行ってみたいと思います。
やることは、
- Windowsキーを押して、離す
- c, a, l, c と順に入力する
- Enterキーを押して、離す
これだけです。
これだけですが、実のところ、Pulover’s Macro Creator を使うにあたって、ぱっと見のボタンの多さの次に初心者が挫折しがちなのがこの「記録操作」です。ここでしっかり操作と特徴を覚えていきましょう。
試しに記録してみる
では、まず特別設定を変えたりしないで、なんとなくやってみるつもりで操作を記録していきましょう。もし、Pulover’s Macro Creator を初回起動したばかりで、サンプルのマクロが開かれている場合は、「新規作成」ボタンをクリックして、まっさらなPMC ファイルを作成してください。
※もし、以前の記事で同じように実験している場合、すでに設定が変わっているので、もとの設定に戻すか、「そうなんだ」程度にお読み下さい。
手順は以下の通りです。
- Pulover’s Macro Creator をアクティブにした状態で、Ctrl + R を押す
- 操作方法のダイアログがでてくるので、OKを押して閉じる(「以降表示しない」にチェックを入れるかは任意)
- (Pulover’s Macro Creator のメインウィンドウが消えても気にせず)F9 キーを押してマクロ(RPAシナリオ)の記録を開始する
- Windows キーを押す
- calc とローマ字で入力する。
- ちょっとマウスを触って動かしてみる
- Enter キーを押す
- F9キーを押してマクロ(RPAシナリオ)の記録を終える
無事記録できたら、ツールバーコントロールの「再生」ボタンを押して、できたばかりの RPA シナリオを再生してみましょう。LibreOfficeなど、別に「calc」という名前のアプリケーションをインストールしている方は、もしかしたらそちらが起動してしまったかもしれませんが、今回はそのまま進めてください(別記事で対応を考えます)。
どうでしょうか。きちんと再生されていますね。マウスを触って動かしてみた人・操作中に自然と動かしてしまったマウス入力までばっちりです。
違う、そうじゃない
確かに、電卓の起動には成功していますが人間の操作をそのまま、忠実に再現しているせいで「余計なマウスの動き」や「入力の遅れ」まで再生されます。繰り返し行う作業を効率的に行う RPA でこれは致命的ですね。
Macro1タブに記録された RPA シナリオを見ても、ずらずらとよく分からない内容・アクション(操作の内容)が記録されています。
ではどうしたらいいでしょうか? 記録のときに、できるだけ無駄なく高速にタイピングを行う? もちろん違います。
対処方法は大きく分けてふたつあります。
- 必要なアクションだけを残して削除する
- 必要なアクションだけを記録するようにする
今回は、2のアプローチを採用することにしましょう。常に2がいいかというとそうとも言い切れません。
しかし、1を実行するにはそもそもアクションについての知識が必要なので、最初から挑戦するにはハードルが高いです。このあたりが、Pulover’s Macro Creator にかぎらず、マクロ・ RPA を自社で導入しようとして「難しい! 無理だ!」となってしまう壁のひとつでしょう。
幸いにも、Pulover’s Macro Creator については、アクション・操作内容を記録する / 記録しない について、かなり細かいレベルで指定できるようになっていますので、記録された内容でいらないところを目で探すという作業はかなり軽減できます。
記録の前の下準備
では、次の記録に入る前に、先ほど記録されたアクションを削除しましょう。どれかアクションが表示されているリストの中から、アクションをクリックして、Ctrl + A で全選択、Delete で削除します(ときどき、ショートカット機能が競合してうまく動かないので、その場合は「選択」メニューから「全選択」、「編集」メニューから「削除」を実行します)。
そして、次の記録に入る前に、記録するアクションを選択します。
Pulover’s Macro Creator のメインウィンドウであれば、「●」の右側の▼、ツールバーコントロールであれば赤い歯車のボタンをクリックして、記録に関するオプションを表示します。
そして、「キーストローク」以外についているチェックボックスを全てはずします。何故かというと、今回の操作のキモは全てキーボードにあるからです。それぞれの項目の意味を解説すると…
- キーストローク
キーを押した、離したの情報をセットで記録します。通常のキーボード操作の記録にしようします。Ctrl+s などのようなショートカットキーの記録も正常に行われます(このくらいならわざわざキー状態をキャプチャにしなくても大丈夫です)。 - キー状態をキャプチャ(ダウン/アップ)
キーを押した、離したの情報を分割して記録します。押しっぱなしが重要な意味をもつ場合(マウスとの併用するグラフィックアプリケーションなど)で使います。 - ControlSendを記録
より高度な記録方法を使いますが、通常は使う必要がないので割愛します。 - マウスクリック
クリック操作のみ記録します。クリックする座標(位置)も記録されるので、通常はマウスの移動を使う必要はありません。 - マウスホイール
ホイール関連の操作のみ記録します。 - マウスの移動
クリック・ドラッグなどを伴わないマウスの移動も記録します。通常は使う必要が少ないです。 - ControlClickを記録
より高度な記録方法を使いますが、通常は使う必要がないので割愛します。 - 時限間隔
操作にかかる時間・次の操作までの間を記録します。使う必要はほとんどないです。 - ウィンドウクラス
どのウィンドウに対する操作かを、WindowClassという、アプリケーションの種類のようなデータをつかって記録します。 - ウィンドウのタイトル
どのウィンドウに対する操作かを、ウィンドウの上にあるタイトル文字列をつかって記録します。ウィンドウクラスだけだと特定できない場合などに使います。
最初はこれを全て覚える必要はないです。ただ、通常は「マウスの移動」「時限間隔」はチェックを外した方がいいということをしっかり覚えておきましょう。よほどの意味がなければ、余計なアクションが記録され、マクロ、 RPA の実行に時間がかかるだけになってしまいます。
カンのいい方は、「ウィンドウクラスとウィンドウのタイトルはチェック入れたままでいいんじゃないの?」と思うかもしれません。ただ、今回はWindowsキーという、どのウィンドウでも同じ動作をするキーを押し、さらにWindowsキーを押すとスタートメニューがアクティブになる、という性質を利用するのでチェックを外しています。
では、チェックをはずして再度記録を行ってみましょう。アクションのリストが、大体下図のようになれば一応の成功です。
しかし、これを青い再生ボタンをクリックしてみても、上手く動作しません。なぜでしょうか。
最後の微調整、ディレイをかける
上手く動かない現象は、人によって少し異なると思います。検索ウィンドウに「calc」と入力されたっきり止まっていたり、「alc」や「lc」などで止まっている場合もあるかもしれません。
なぜかというと、人間には不可能な速度で(PCが出せる限界のスピードで)キー操作を入力しているので、「スタートメニューが表示される前にキーの送信を始めてしまった(alcと入力されているパターン)」「calcというアプリケーションが検索される前にEnterキーが押されてしまった(calcと残っているパターン)」という現象が発生してしまったためです。
これに対処するにはどうしたらいいでしょう? 先ほどの記録するアクションのリストで言えば時限間隔を記録すればいいとなります。しかし、それでは遅すぎましたね。そこで、自分でアクションに対して、適切な「間隔」を空けてあげます。
まずは、次の操作までに間隔をあけたいアクションを選択します。つぎに、それをダブルクリックするか、Enterキーを押して、アクションの編集ダイアログを表示します。今回は、シンプルなSend タイプのアクションの編集画面が開きます。
アクションの編集ダイアログには、「遅らせる」という項目があるので、ここに何秒 または 何ミリ秒遅らせるか入力します。今回は、単位をミリ秒に設定し、遅らせるを 300に設定しているので、cを入力してから、0.3秒間は「何もしない(Enterキーの入力まで進まない)」という意味になります。
同様に、2行目の「LWin Up」アクションについても、「遅らせる」の値を設定します(これを他の RPA やプログラミングでは、ディレイをかけるとか、ウェイトを入れる、スリープを挟む、などと表現します)。筆者は、最初のcの入力がされないパターンがほとんどなかったので、0.05秒の遅延にしました。
「遅らせる」の数値を設定すると、アクションのリストが、
以上のように「遅延」の部分に数値が入った状態になります。
この状態でもう一度再生してみましょう。どうでしたか? 上手く動作したでしょうか。
遅延の数値については、PCのスペックに大きく左右される部分でもあるので、上手く動作しない場合は、思い切って大きな数値にしてみる。この記事で編集した部分以外にも少しずつ遅延を追加していって、動作がどうなるか、を確認するなどの試行錯誤をしてみてください。
逆に、上手く動いた! という方は、遅延の数字を少しずつ小さくしていって、どのくらいから不安定になるか検証してみるのもいいでしょう。
終わりに
マクロ RPA ツール Pulover’s Macro Creatorについての解説でした。
業務で使うとなると、サポートの手厚い有償のものの方が安心な場合もあります。しかし、Pulover’s Macro Creator はまさに RPA ツールとして、マクロ・自動操作の記録と記述に特化したツールであるので、他の RPA ツールを評価する基準としても使えるので、覚えておいて損はないです。なにより、本ブログのチュートリアル記事も大分充実しましたので、「どう作ればいいか」が明確になっているのも利点です。
次回は同じく電卓の起動を題材にしながら、キーボード操作・文字列の送信のアクションについて詳しく見て行きます。
2件のフィードバック