Nextcloud はオンプレミスに(クラウドでもいいですが)インストール可能なオンラインストレージサーバーです。インストール方法などは、過去の記事を参照してください。
仮想ファイルによるオンデマンドの同期と、 WebDAV によるネットワークドライブのマウントができれば、個人用ファイルストレージとしては充分です。また、 Web インターフェイスを使って、ファイルを他ユーザーと共有したりもできます。ここまで出来ると、自分で管理が必要な以外はちょっとだけ、ただのクラウドストレージより便利かな? と感じてきます。
ということで、今度はもうちょっと便利にするために、タスク管理ツールを導入してみたいと思います。同じサーバーに、ではなくて Nextcloud の拡張アプリとしてご紹介です。
Nextcloud の拡張としてタスク管理ツールを導入するメリット
確かに、タスク管理ツールであれば、無料サービスも多いですし、カンバンボード式のオンプレミスでは Wekan などもあります。もちろん、通常の Todo であればメーラーなどにも付属しているので、わざわざタスク管理用にアプリを追加するメリットがあるのか、疑問に思うかもしれません。
しかし、よく考えてみると、結構なメリットが存在しています。
アカウントを共通化できる
例えば、社内ネットワークなどでは LDAP, モダンなウェブアプリケーションではシングルサインオンなどのサービスもあります。ありますが、結局のところ、ログイン情報を共通化することで、ユーザー側の便宜を図っているだけというパターンが多くあります。
中小企業の一人 SE だったりすると、従業員の入退社の度、クラウドサービスにアカウントの管理をしなければならないといういこともあるでしょう。もちろん、SSO に対応していなければパスワードのマネジメントも非常に重要です。
これが Nextcloud に集約されていれば、とりあえずは Nextcloud のアカウントを用意するだけで、タスク管理ツールまで用意できます。もちろん、コラボレーション設定なども Nextcloud 上だけですませればいいので、手軽です。
オンラインストレージ上のデータにすぐにアクセス可能
クラウドサービスの場合、 API 連携などでオンラインストレージ・クラウドストレージ上のファイルにアクセスが可能です。しかし、これには API 連携が必要だったり、タスク管理ツールからクラウドストレージ上にファイルをアップロードするのが面倒だったりと、使用方法が少し面倒な側面があります。
Nextcloud 上で完結させていれば、Nextcloud 上のファイルにすぐアクセスできますし、アップロードする先も Nextcloud 上です。
メンテナンスが楽
オンプレミスに複数のオンラインサービスを展開すると、その分サーバーのメンテナンスが必要です。ハードウェアを同一にして、仮想化してもやはりそれは同じです。
しかし、全て Nextcloud にまとまっていれば、管理するのは Nextcloud だけで済みます。
重要なデータが散逸しづらい
タスク管理ツールにデータがアップロードされないということは、重要なデータがクラウドサービスのどれかにあって、見つからない……といったことが防げます。
特に、電子帳簿保存法などによって遅れていたペーパーレス化が進む中、重要なドキュメントの散逸は絶対に避けたい事態です。言うまでもなく、運用ルールの適用ミスといった人為的エラーが原因は厄介です。
そこで、 Nextcloud にタスク管理も集約してしまえば、「他にファイルをアップロードしない」ことを徹底しやすくなります。
アプリで簡単に Nextcloud に導入できるタスク管理ツール
Deck(デッキ)
いわゆるカンバンシステム。 クラウドサービスで言うと、 Trello, オンプレミスだと Wekan などが代表的なツールです。
元々は、トヨタのJITな生産方式で採用されていたのがベースとなっていて、現在ではリーン開発、アジャイル開発などに応用されている仕組みです。特徴としては、タスクなどが視覚的なカードとなって列に配置されることです。これにより、
- タスクの進行度
- 取り組んでいる問題
- 取り組めるタスクの上限
- 注力ポイント
- 達成ポイント
などを効果的に管理できます。
Nextcloud の Deck の利点
Nextcloud のファイル、ユーザーなどへのアクセス性の他に、
- カレンダー アプリにタスクが表示される
- タスク アプリにタスクが表示される
- Trello からデータをインポートできる
- ファイル添付の他に、「プロジェクトへの追加」でリンクの設定ができる
といった点が挙げられます。他のスケジュール、タスク管理アプリにデータを表示できるので、直感的なカンバン方式の表示の他に、カレンダーで期日ベースの管理をしたり、タスクで大量のタスクを一覧したりといったことができるのが利点です。
Trello などでも同様のことができますが、 PowerUp などの活用が必要だったりといった側面もあるので、ただ Nextcloud をいれればいいという点で優れているといえます。
カードに添付するファイルは、新規にデッキの GUI からアップロードした場合、ユーザーの「Deck」フォルダにアップロードされます。もちろん、 Nextcloud にアップロードされている既存のファイルを「添付」することもできます。
もう1つ、「プロジェクト」機能を活用してファイルとグループ化することもできます。
「詳細」のプロジェクトに追加 メニューからファイルへのリンクを追加できます。単にこの画面からファイルを追加した場合、カード名でプロジェクトが作成されます。
また、「ファイル」アプリからは、「共有」機能を用いてカードやボード、会話へリンクができます。既存のプロジェクトにファイルやカードを追加したい場合は「プロジェクトに追加」にプロジェクト名を入力して検索をし、選択します。
Nextcloud の Deck の欠点
先に述べたように、カンバン方式の利点の一つに、視覚的に情報を整理しやすい点が挙げられます。しかし、 Nextcloud のテーマに則って配色される都合上、カードひとつひとつの存在感がそれほどなく、視覚的なタスクの整理効果は薄いと言わざるを得ません。一応、タグ付けにより、色つきのタグが表示されますが、それでもぱっと見のインパクトは弱いです。
また、「プロジェクト」機能についても、プロジェクト個別で管理する方法が見つからず、共有などもあまりできないので「プロジェクト」という名前に期待するとがっかりするかもしれません。
Tasks(タスク)
非常にシンプルな Todo リストです。タスクを1行で入力し、完了したらチェックをつけて完了させるチェックリストタイプです。
追加の機能として、「期日」「進捗度」「必要なアクション」「タグ」「タスクの階層化(子タスクの追加)」などがあります。
Nextcloud の Tasks の利点
追加したタスクは、標準でインストールされる、カレンダーアプリに表示されます。また、タスクの操作はできませんが、先に紹介した「デッキ」アプリのリスト・カードが、入れ子構造のタスクリストとして表現されるので、特に横に長いボードを俯瞰する場合などに活用できます。
Nextcloud の Tasks の欠点
ファイルの「添付」や「リンク」といった機能が利用できないので、「このファイルについてやることをリストアップしておこう」といったような使い方ができません。
デッキと同じく、視覚的な効果も薄めなので、簡単なメモ・備忘録のチェックリストといった使い方になると思います。
終わりに
今回は、 Nextcloud のタスク管理系アプリを紹介しました。ユーザー側としても、 Web アプリがあちこちに散逸するのは不便に感じるものです。また、 PC スペックが充分でない場合には、多数のタブを開きっぱなしにすることで個々の業務効率が低下すると言った、副次的なデメリットが発生する場合があります。
また、社内 SE のような人的リソースが限られる場合、管理コストも馬鹿にはできません。一つの Web アプリケーションに集約することで、そのコストを低下できるといったメリットも無視できません。
とはいえ、どうしても Nextcloud という枠の中でのツールとなってしまい、専用に開発されたツールには見劣りしてしまうのも事実です。
似たようなアプリがあるからといって急に移動するのではなく、既存のツールと比較して、移行しても問題なければ移行するといった対応が必要になると思います。
楽介でした。