気がついた時にはその組織内のNASは手が付けられない状態になっていました。数人のグループのために作られたフォルダの中に、十数人が好き放題にフォルダを追加し誰もどこになにがあるか把握出来ない状態でした。
更に悪いことに個人のPCでファイルを所有していると、担当者が休みの際にいちいち探すのが面倒との理由で、途中経過も何もかもがNASの中に保存されているというような状態。もちろん、どこに何があるかは誰も把握出来ていない。結果、深いフォルダツリーに対してひっきりなしに検索がかけられ、その間もNASに対してファイルの書き込みが行われているといった状態。
「NASが重くてどうにもならないから、NASを追加してくれ!」
そんなことを言われても、運用を変えなければ事態が改善しないことは火を見るより明らかでした。とはいえ、こんな業務ルールを策定した人には全く通じませんでしたが。
対策案1. Everythingを導入する
Everythingはインデックス型の強力なファイル検索ソフトです。手動でネットワーク(Samba)パスを指定することでネットワーク上のファイルを検索することも可能です。通常の規模であればこれで問題なかったでしょう。
ただ、今回の場合、
- 検索対象のフォルダが日々増え続ける
- 特定のフォルダ以下をインデックスでは過不足が生じる
- 既に10万以上のファイルフォルダの存在するNASに対し、十数人でインデックスを作成した場合、どうなるか不明
- ユーザーにEverythingで検索するよう指導する教育コスト
- MacOSなどWindows以外がネットワーク上に存在する
主に以上のような理由により、見送りとなりました。
対策案2. サーバーサイドで検索させる
ownCloudのようなWebインターフェースを持つファイル共有システムを導入し、そこで検索させる手法。標準で各種プラットフォームに対応した同期用クライアントがあり、Everythingよりは馴染みやすいWebインターフェースが使用できる。
また、拡張性が高いなどの理由で候補としては有力でした。
ただ、サーバーソフトのインストールの手間やNASからファイルサーバーにファイルを移動させるなどの手間が嫌われて却下されました。
対策案3. 各PCで共有させる
今回採用したのはこの案で、Syncthingを採用しました。当初はBitTorrent SyncとownCloudの併用を考えていたのですが、最終的にSyncthingのみとなりました。
Syncthingのセットアップなどは後日記事にしたいと思いますが、Dropboxなどのようにクラウド上の(往々にして低速な)中間サーバーを利用せずに、各クライアント同士で高速にファイルの同期・共有を可能にするソフトウェアです。
Syncthingを採用した理由としては、「中継サーバーの利用」や「NATトラバーサルの利用」などを細かく制御できることです。また、デバイスIDが漏れても、手動で許可さえ出さなければファイルの漏洩の危険性が(大きなセキュリティホールがなければ)低いと考えられたためです。また、仮にセキュリティホールが存在しても、アップデートがあればWebインターフェースから簡単にアップデートが行えるというのも見逃せない点でした。
BitTorrent Syncとの違いとしてよく挙げられる「同期フォルダの数の制限がない」という点は今回は余り重視しませんでした。
また、もちろんMacOSでの利用も可能だったのも大きいです。とはいえ、前回の記事で記した通り、文字コードの問題は存在しています(とはいえ、これはownCloudなどを利用してもついて回るかも知れません)。
基本的にユーザーは起動しておけばいいだけなので、教育コストがゼロに近いのも魅力です。
利用方法としては、
- 社内で常時稼働しているサーバーに外付けHDDを追加
- 外付けHDDに設定したフォルダに各部署用のフォルダを作成、バックアップを兼ねた中継サーバーのように扱う
- 運用に入る前に、NASから検索頻度の高いフォルダ群を各部署用フォルダにコピー
- 運用中、NASに格納されている必要なフォルダを適宜Syncthingの共有フォルダにコピーする
- また頻繁にアクセスされなくなったフォルダは適宜NASやバックアップ用HDDに移動する
という形にしました。
完全にNASを撤廃する必要性はなかったので、これだけでも大幅にNASの負荷を減らすことができました。
終わりに
ペーパーレス化を推し進めたり、IT化を推し進めたりすることは時に企業の生産性を大きく改善します。
しかし一方でユーザーや、業務ルールを策定する人間に充分なリテラシーがない場合、特にネットワーク周りで思わぬトラブルが発生することが分かった一件でした。
今回筆者が選択した対策案3は、現場では外付けHDDの到着から1人日で実行しました。そのため、充分即効性のある対応であります。
ただ、最も応急処置に近い対応でもありますので、LAN内で大量のファイルを共有しなければならない企業のIT担当者は、早い段階で集中管理なり分散管理などの方針を決定して導入した方がいいという教訓となりました。
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