人間は本来マルチタスクができないという研究結果が多数でています。人間は本質的に”マルチタスク”はできない 「一点集中」を続けるのが効率的というような記事が、年に何度かでていますね。
これは、わざわざ言われなくてもいろいろな雑務や、上司や同僚、アウトソーシーなど色々なステークホルダーとの連絡をとらざるを得ない現代の社会人なら実感している方も多いかも知れません。逆に、マネジメント層になると支持や連絡が主体になるので「何故こんなに生産性があがらないんだ!?」という悩みの種にもなっているかもしれません。
一方で、PCでマルチタスクを効率的に行えるとうたわれるマルチディスプレイですが、こちらは「42%もの生産性向上効果」が期待できるとの調査もあるらしいです(一次調査は見つかりませんでした)。
これらの調査は、矛盾するものなのでしょうか?
マルチディスプレイをマルチタスクに使ってはいけないたった1つの理由
人間は本質的に「マルチタスク」ができないからです。ではマルチディスプレイは不要なのでしょうか?
答えは、これも否です。
マルチディスプレイで効果的に仕事を効率化する方法
それは、「たった1つの仕事」に集中するための環境を構築することにあります。マルチタスクが本質的にできないという研究では、「スイッチの切り替えに多大なストレスがかかるから」と説明されています。
これは十分に根拠のある話だと思いますし、実感としても正しいです。しかし、「A→B」への仕事の切り替えが、1度ですむか? という点と、意識的か無意識的かという点については実務に携わっている本人たちが考えなければいけないことです。
ディスプレイの1つで資料作りを行い、もう1つでメーラーを起動しておく
割とよくある形ですね。しかし、この方法には大きな問題点があります。
問題点その1. 資料作りとメール以外には対応しづらい
さて、あなたがメールを横目でちらちら確認しながら、頑張って資料を作っていたとしましょう。そこに上長から電話がかかってきて、「クラウドストレージに入れた資料が見つからないから、もう一度Slackで送信しろ」とのお達しが下ったとします(やですね~)。
そうなると、あなたは作業はもちろん中断し(電話で中断されていたので)、クラウドストレージのウィンドウを開き、Alt + Tabを何度か押して大量に開いたウィンドウからSlackを探しだし(あるいはタスクトレイから引っ張り出し)て上司に資料を送付することになります。
問題点の詳細は、
- 資料作りの体勢が破壊されてしまうこと
- わざわざクラウドストレージを開くこと(これは予定外の連絡なので、まあ仕方がないでしょう)
- ウィンドウを探す手間が発生すること
順に見て行きましょう。
「資料作りの体勢が破壊されてしまうこと」はせっかく、メールを見ながら資料を作るという体勢を構築していたのに、それが破壊されてしまったことです。これでは、上司に資料を送った後、気力が持続していてももう一度資料作りの体勢に戻さなくてはいけません。
クラウドストレージについては、仕方がないですね。上司に覚えてもらうしかないでしょうか。
そして、ウィンドウを探す手間が発生しています。
先ほど、「A→B」への仕事の切り替えが、1度ですむか? と記載したのはまさにここにあります。現実世界であればほぼ無意識ですむかもしれませんが、PCの上ではほぼすべて意識的に探したり、起動したりしなければ何も行えません。
「A→B」までの間に、もっと細かくて多数の切り替えコストが発生しています。
一方で、メーラーについてだけは、マルチディスプレイに表示されているので、ほぼ無意識的に確認できますね。
問題点その2. メールが無意識的に目に入ってしまう
こちらも重大な欠陥です。先ほど、無意識的に確認できるとしましたが、これは利点でもあり欠点でもあります。
つまり、無意識的にメールを見ることで資料作りには完全に集中できていません。それどころか、緊急性はまったくないのに、後で処理するにも気が重くなる、同僚からの泣き言メールが目に入ってしまうかもしれません。
そうなると、メールの方に意識を奪われて、それでも今は処理するようなものでもないな……という葛藤が生まれて、あなたの生産性は低下する一方です。効率的な仕事とはとても言えませんね。
マルチディスプレイはシングルタスクに使う
以上から導き出される結論は、マルチディスプレイでマルチタスクを行ってはいけないということです。筆者のように、マルチディスプレイの1つに常にSNSを表示しておくような真似は、絶対にしてはいけません(執筆中や仕事中はしませんよ、もちろん……。退屈なテレカン中はやるときもありますが……)。
それでは何に使うかというと、シングルタスクのために使います。
特に、先ほど記した通り、PC上では「無意識的な切り替え」が難しいです。意識的に探し出して起動するという作業が発生します。そこで、無意識的に参照する必要がある情報のみをマルチディスプレイに表示します。
つまり、資料作りで言えば、調査結果の表示されたExcelや報告で上がってきたグラフなど。手軽にコピペしたり分析したりしたい内容となります。
また、タスク管理ツール(TaskChuteやTodoist、バグトラッカー)、タイマー(ポモドーロテクニック用)などもいいでしょう。
タスク管理ツールは、ひとつの比較的大きなタスクの全容を把握できているときはいいですが、さらに細かなTodoが含まれている場合(ソフトウェアのバグ対応や、報告書に必ず記載したい内容など)には、タスク管理ツールを並行して参照できるようにするのは、重要です。特に、TaskChuteは時間計測機能があるので同時起動が重要ですね。
もちろん、ポモドーロテクニックなどに使われるタイマーソフトウェアも起動の候補になります。とはいえ、本当にポモドーロテクニックを行う場合には、仕事に集中するためのルーティーンとしての意味合いもありますので、アナログのタイマーを使うことをおすすめしますが。
マルチタスクには仮想デスクトップ
そうは言っても、実例に挙げた通り、現代人でマルチタスクをしなくてすむのは、よほど労働環境を科学的に整えてくれる企業のみでしょう。残念ながら、効率的な仕事、生産性の向上を目指していながら、明確な指針、科学的根拠や統計的エビデンスを用いる会社は一握りです。それに、何事にも例外・完璧を実現できない障害はあります。
そこで、マルチタスクをある程度しなければならない、と割りきって考えた場合、有効なのはマルチディスプレイではなく仮想デスクトップです。
仮想デスクトップを使って効率的にマルチタスクを実現する方法は、以前のそれでもマルチタスクをしなきゃ行けないなら仮想デスクトップを使えを参照してください。実際、今回の実例のように急な連絡で作業環境を汚染されて困っていた筆者が実践して、仕事への集中を邪魔された後もスムーズに戻れるようになったパターンも紹介しています。
シングルタスクを効果的に行うにはマルチディスプレイ
結論としては、マルチディスプレイは見た目のイメージとは裏腹にシングルタスク向けということでもあります。
ただそれは、人間が「マルチタスクに向いていない理由」を排除して、「マルチタスクになるんだけど、ぎりぎりシングルタスクっぽくまとめてくれる」ということでもあり、確かにごっちゃになっても仕方がないかな……と思います。
仮想デスクトップ×マルチディスプレイを応用すれば、複数の資料やタスク管理画面を行き来しながら仕事を進めることができますので、かなりの生産性の向上が期待できますね。
さらなるTIPSとしては、例えばテレカン、Web会議の準備をどうしても仕事に集中できないときに仮想デスクトップのひとつに、先に構築しておくという手法があります。これで「もうすぐ会議だなー準備しなきゃなー」といった面倒な悩みを軽減することができます。
今は、ノートパソコン向けにもモバイルディスプレイが多く発売されていますので、フリーアドレスな働き方でもマルチディスプレイが行いやすくなっています。
外出先で作業することが多い方には13.3インチがおすすめですが、自宅のテレワークでノートPCと一緒に使って、使わないときには片付けられればいい、といった場合には、15インチ、17インチといったサイズが画面が広くて使いやすいと思います。
また、モバイルディスプレイではType-C対応のものも増えています。相性などがでやすい部分でもありますが、面倒な接続の手間が省けるのでType-Cだけで映像出力ができるのであれば、それを利用するのもひとつの手段です。安価なType-Cケーブルは映像出力非対応のものが多いので、高価でも映像出力対応をうたっているものを使用するようにしましょう。
心配な場合は、HDMI出力機能がついた、Type-C用のハブ(ターミナル、ドッキングステーション)などを利用すると安心です。USBハブとしても使えますし、Ethernet(LAN)ポートがあるタイプだと、いざというときに便利です。たとえば、ルーターがどうしても調子が悪くて、コンソールにアクセスできるポートに直接接続したい場合などですね(あんまりない需要ですが……)
これらを組み合わせて、より効率的に仕事をすすめていきましょう。