あなたは自分を論理的だと思っていますか? 自分が論理的に説明しているのに、相手にはそう思われていない気がする? そんな経験はありませんか。
私は自分を論理的だと思っていましたし、ちゃんと論理的な説明をできているつもりでいました。だってまあ、論理的な記述をしなければいけないプログラムを、何十年と書いてきたのですから、ふつうの人よりは論理的だと思ってもまあ、仕方がないですよね。
しかし、大体、偏差値 60~65 と言われている中小企業診断士試験の勉強をしているとき、模試の点数を見て、相手に論理的に文章を伝えられていないということが分かりました。
そんな時に読んで「役に立った!」とこころの底から思えたのが、ロジカル・シンキング Best Solution 論理的な思考と構成のスキルです。
偏差値63クラスの試験の合格に役立った論理的コミュニケーション術
この記事と本が役に立ちそうな人
- 論理的に話しているつもりなのに、「もっと論理的に」と言われてしまう
- 「要するに、どういうことなの?」と言われてしまう
- 「具体的に」と言われてしまう
- 論理的な報告のやり方なんて、社会人になっても教わったことがなくどうしていいか分からない
- 中小企業診断士試験のように、論述の試験を受ける予定がある
- とりあえず本に興味があるから、書評を読みたい
この記事を書いた人
- 難易度の高い中小企業診断士試験をほぼ独学の状態で合格
- プログラミングの基本を中学で学習した後、C言語の基本だけを学校で学び、その後、HTML, Perl, PHP, JavaScript, Javaなどを独学し、Webサイトの立ち上げや業務用Webシステムを開発
- ようやくワクチン1回目の接種が終わった
- 最近ではnode.js と Firebaseを使い、単独でやはり業務システムを開発
- その他Webマーケティングなども並行して担当
- ずっとひとりで技術・デザインをやり続けてきたので、ビジネスの基本的スキルの師がいない
ざっと、本の内容
ロジカル・シンキングという本のタイトルからすると、「論理的な思考方法」と受け取られがちですが、すこし違うな……というのが筆者の印象です。または、ソフトウェア開発をしているせいかもしれません。
ソフトウェア開発の世界では、無数にある課題解決の方法の中から1つを選択し、それを不具合なく(バグなく)安定的に動作するような論理の流れを構築します。つまり、解が無数にあって構わない状態です。
ただそういったコンピューターの世界での「論理性」ではなく、あくまでもビジネスの世界で、「人間に伝える」方法論としてのロジカル・シンキングです。なので、思考方法というよりは、伝達方法・ロジカルコミュニケーションとした方が書名で誤解は与えなかったのではないでしょうか。なお、本を開いて最初にでてくる「はじめに」では、段落の頭にしっかりと「ロジカル・コミュニケーション」としっかり書かれています。
とはいえ、確かに人を説得する(納得させる)スキルに重きはおいていますが、内容は間違いなく論理的思考方法ではあります。論理的な思考方法を意識して使い、それをプレゼンテーションや報告書でも用いることで、結果的に論理的なコミュニケーションが取れるということだと思います。
そして、本書では、第2部において論理的に思考を整理する技術として、 MECE と So What? / Why So? を紹介しています。
さらに、第3部 で MECE と So What? / Why So? を使って実際に論理を構築する方法を紹介しています。
この本で素晴らしいなと思ったのは、特に第3部でした。正直、 MECE や So What? / Why So? については個別のスキルとしては、ネットで検索しても出てきます。しかし、ばらばらな状態だと、結局使いどころを間違えたり、一部分だけに使って結局効果的ではなかったりということが起きます。
それに対し、この本ではちゃんと「こういうときにはこう組み合わせろ!」と具体例をこみで説明されているので、実践しやすかったです。
ちなみに筆者は中小企業診断士試験のために、 MECE を目当てで購入しました。が、試験に一番役に立ったなぁというのは、So What? / Why So? の説明でした。
一方で、MECE については「漏れなく重複なく」なんて簡単に説明されがちですが、第3部の実践を見ることで、実際の仕事で役に立っています(試験にはあんまりでした)。
MECE と Why So? / So What? について
MECE について
MECE とは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、経営コンサルティングのマッキンゼー社で使われだした用語だそうです。
このMECE の略語は「漏れなく、ダブりなく」とか、いわゆる「切り口」だとか、そういう説明をされます。分かる方はそれでいいのでしょうが、プログラミングを書いていると、この説明だとちょっと脳みそに「?」が出てしまって素直に頷けません。
というのも、プログラムでよく出てくる「条件分岐」は、入力される可能性があるあらゆる条件を集合として、それについて「漏れなく、ダブりなく」判断をおこなって分岐処理を記載します。ちなみに、この「あらゆる条件」の設定を間違えると、重大なバグが発生する原因になります(悪意のあるハッカーの攻撃手段としてもよく使われます)。
しかし、いわゆるビジネスで言うMECEってちょっと違うなっていうのが、本書を読んでの感想です。実際、本書では第3章の冒頭に、
全体集合がはっきりしていて、その全体集合がどのような部分集合体で成り立っているのかをわかっていることが重要だ。
とはっきり述べられています(ロジカル・シンキング Best Solution 論理的な思考と構成のスキルより引用)。
そして、そのMECEの種類として、ビジネスでよく使われるフレームワークである、
- 3C/4C
- 4P
- 7S
- 過去・現在・未来
といった用語を分類しており、これらについても「漏れや重複が絶対にないとは証明できない」と明言しています。
ですので、MECE とは、「全体集合を定義して」(切り口)、「定義された全体集合の中を重複なく網羅している」状態といった方が、正しいように思いました。プログラミングでよく用いられる「else(その他・これまでの補集合)」や「デフォルト値(入力がなかった場合に仮で入れる値)」とは少し異なりますね。
ビジネスのコミュニケーションの上では、自分で完璧にMECEな状態を作るよりも、フレームワークを使い、そのフレームワークが要求する全ての要素を満たしてあげることが最初は重要なように思います。ときどき、「4Pで分析します!」といって、Placeを無視してしまうような例もあるので(試験対策上もこれが重要かもしれません)。
より詳しくはロジカル・シンキング Best Solution 論理的な思考と構成のスキルを直接読んでいただいた方がはっきりと分かると思います。どうやって MECE であると人にも伝えられるか、ということを実例を交えてかなり丁寧に書いてあります。
So What? / Why So? について
「要するに」といって話が全然要せていない人や、どんどん話が違う方向にいってしまう人向けに便利そうなのが「So What? / Why So?」の考え方です。
- So What? 「つまり、どういうことか?」
- Why So? 「なぜ、そういえるのか?」
という2種類の疑問文ですが、これがそれぞれ背中合わせになっていると、理論的に筋が通っている(と感じやすい)というフレームワークになっています。
たとえば、「雨風が強まっている。したがって、台風が近づいて来ている」という、So What? 文を考えたとします。
それに対し、「台風が近づいて来ている。なぜなら、雨風が強まっているからだ」という Why So? 文が成り立つことが重要です。
これはあまりにも基本的すぎて、「そんなの意識しないでも当たり前にできているよ」と最初は思うのですが、本書で取り上げられている事例を見ると、「あ、自分もこんな失敗してるや」という無意識にしてしまっている論理の飛躍に気づくことができます。
また、自分の考えを検証する際にも役に立つこの「So What? / Why So?」ですが、コミュニケーションの上でもとても役に立ちます。「上手いな」と思うプレゼンテーションの動画を、この本を読んだ後に分析的に見ると、この「So What? / Why So?」を使い、ループしていることを強調しているものが結構あります。
ただ、一見するとMECEよりも非常にかんたんな理屈に見えてしまう分、短く紹介するのが難しいです。自分の論理の飛躍が気になる場合や、プレゼンテーションが上手く伝わらない……と感じている方は、読んでみると得られるものがあるかもしれません。
筆者が中小企業診断士試験で役に立ったのは、論理の飛躍がなくなったからではなく、論理の飛躍がないですよ、と文章に込められるようになったからです。
本書を読むまでは、設問に対して、「事象Aを修正するために、施策Bを行います」といったような書き方をしていました(So What?と言えるでしょう。)。
ただ、これだとあまり点数が伸びないらしく、「事象Aを修正するために、施策Bを行い、課題A’を改善します」と、Why So? を意識した文章にすると模試の点数が伸びました。課題A’ については、問題文・設問文にある内容なので、解答として記載している以上、その問題に解答していることは自明だ、と私は考えていました。
しかし、確かにコミュニケーションという観点からすると、仮に相手の問いに答えるという行動をとっていても「あれ? この話何の話だ?」となってしまうことはままあります。
そんな場合に、So What? / Why So? を使って「飛躍していないし質問に答えていますよ」と自ら検証することで、「相手にとって伝わりやすいプレゼンテーションになるのだな」ということがこの本を読んで、やっと私は理解できました。
論理の「型」について
本書の3部では、「並列型」と「解説型」という2種類の論理構築・MECEとSo What? / Why So? の使い方が出て来ます。使い方というよりは、論理の道具としてMECE と So What? / Why So? をパーツとして使い、ひとつの論理を「構成」する方法の解説が3部にあります。
ありがちなのが、「4P分析をしました!」「それで?」という確かにMECEっぽく分析されているものの、そこから論理が導き出せていないようなプレゼンテーションや報告です。
それを防ぐために本書で解説している論理の「型」では、So What? / Why So? を論理の縦(深さ)とし、MECE を論理の横(幅・切り口)として用いています。
MECE が幅というのはなんとなく、「全体集合の定義が広ければ広いほど幅が広くて、区分けの方法で細かさが決まるな」と理解できると思います。
So What? / Why So? についてはどうでしょうか。これは、MECE を層状に積み重ねて、それぞれの層をSo What? / Why So? で繋ぐ……という形になります。
論理の階層は、このようにSo What? / Why So? でつなぐ限り、どんどん深くしていくことができますが、あまりに深いとどれだけ論理的に正しくても、よく分からない話になってしまうでしょう。
並列型
並列型は、本書では「論理の基本構造そのもの」と言っています(上図参照)。たとえば、4P分析による各分析を、So What? して結論を導き出せば、「並列型」の論理になるといった解説が書かれています。
この解説はとくに難しいことはなく、「当たり前だよね」と納得しながら読みやすい部分です。逆に言うと、ほぼMECE とSo What? / Why So? の総復習に近い状態なので、簡単だよね……と言わずにしっかり読み込むようにすると、提案書などはかなり書きやすくなります。
解説型
解説型も、図の形状はほぼ同じですが、「結論」の根が、「事実」「判断基準」「判断内容」に固定されています。この3つが、決断を導き出すまでの順序であり、思考した内容のMECEであるということですね。
並列型でもできるのでは? と思いがちですが、「判断基準」「判断内容」が主観的であるということが特徴的です。
つまり、単なる報告ではなく、「事実に対して、自分が行うアクションを誰かに解説する」ための論理となっています。並列型と区別するには、本文と、本書付属の集中トレーニングが便利なので気になった方は読んでみて下さい。
解説型の解説が、クレームに対する対策で、非常に勉強になります。
わかりやすい部分
本書を読んでいて分かりやすかったところを挙げてみます。
失敗例の記載
とにかく、「できていると思っても、これはダメだよ」という例が豊富です。正直、この記事を読んで「分かったぜ!」と思った方は、大体本文を読むと「あ、ここ自分やっちゃうミスだ……」という気づきが多いと思います。
コラムが豊富
上記とも関連しますが、コラムとして想像しやすい状況の解説が多くあります。なかには、「宝くじに当たったら、何をするか」について論理的に考えつつ、とても論理的に導き出したとは思えない結論を出すようなコラムもあります(解説型で、判断基準が主観的だからですね)。論理的に飛躍していなくても、こんなこともできるんだな、という頭の体操にもなり、息抜きにもなるので読んでいて楽しい部分です。
集中トレーニングのヒントが丁寧
集中トレーニングという、読者が自分で論理設計をする問題が付属しています(そのため、同じ著者の練習ノートも出ていますが、とくに要らないような……)。
模範解答的なものはありませんが、考える上でのヒントがついているので、(おそらく)間違えてしまっても、ヒントを見れば大体正しい方向に軌道修正ができ、ただ読むだけでなく、実力を伸ばせるように思います。
おわりに
面白い例も多いので、ロジカルにコミュニケーションしよう、という割には肩の力を抜いて読める本です。また、扱われている論理も、数自体は少なく、どれも単純です。にも関わらず、失敗例もあり、なぜ失敗したかも解説されるのでとても分かりやすいです。
なにより、とても実践的な内容なので、仕事でレポートやプレゼンテーションを成功させたいときにパラパラと見直すだけでも、MECEとSo What? / Why So? の使い方と、失敗しがちなところを思い出せるので、手元に置いておきたい一冊となっていて、おすすめです。